フライングバス
イオン

飲み会に出るために
クルマを置いて地元のバス亭に向かった
停留所まであと2分という所で
バスが発車時間2分前に出て行った
バスはフライングした

地元民は律儀なので
時間前に並んでいるから
バス停に向かって歩いていても
乗る人だとは思わないのだろう
バスはフライングした

次のバスは一時間後だから
飲み会に間に遅れるので
タクシー会社に電話をすると
混んでて最悪1時間かかると言うので
飲み会幹事に送れるメールを入れて
次のバスまで1時間待つことにした
「少しは立ち止まれ」ということか
バスはフライングしたのに

仕方なく停留所のベンチに座り
スマホの配信記事で時間を潰す
ポイントを短くまとめた前文ばかりで
読み進めるにもポップアップ広告が邪魔をしたり
ここから先は有料というものが多くてうんざりする
「ただでは読ませない」ということだ
バスはフライングしたのに

クリエイティブな仕事術の記事に目が留まる
デフォルト・モード・ネットワークと言う
ぼんやりした状態になると
脳が行う神経活動が創造性を高めて
アイデアが浮かんできやすくなるとのこと
バスが来るまであと30分あるのでスマホをしまって
いつも素通りする街並みをぼうっと眺めてみる
バスがフライングしたのを忘れて

トイレも食事も休憩時間もスマホを手放せない
タバコで一服の時代から
スマホで一服の時代に変わったのだ
肺は汚れなくなったが
脳が汚れているのではないかと思いついた
情報をフライングすることで

次のバスは予想通り2分早く来たので
ダミ声の運転手にクレームを言うと
乗る人がいないから
停留所に停まらないので早くなるのだと
悪ぶった様子もない
バスはフライングを棚上げにした

遅れて参加した飲み会では
既に酔ったメンバーを
しらふで見る機会は初めてだった
酒が入っても本音が出ている訳ではない
噂や裏話を聞くことで特別な人になろうと
情報をフライングし合っていた

帰りの終バスでは眠ってしまった
遅れて参加したと速いピッチで酒を注がれて
けっこう酔ってしまったのだ
運転手のダミ声で起こされたのは隣町の終点
うなだれてベンチに座りタクシーを呼ぶ
タクシードライバーにバスのフライングの愚痴を言うと
「そんな特別な夜に参加させてもらえて光栄です」と
できた人間が締めくくってくれた


自由詩 フライングバス Copyright イオン 2024-02-18 11:02:47
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