代償不明
ただのみきや

いとけない手で編まれても
欲深い手で編まれても
花輪は美しい
無垢な蛮行を模倣しながら
夜に膨らむ瞳
まばゆすぎる印象は
その死を辺りに放射する
遠い星に似ていつまでも


開きっぱなしのドアから裸が見える
出かける前にめかし込む
鏡の前に立って
付けたり外したり
快楽のランジェリー
理屈のアクセサリー
耳にまつわるカメオは
あなたの二つの横顔
異なる二つのささやきが
延々と打ち消しあって
いつも真正面に立つはずの
よそ行きの声色 面差しは
白紙の上を歩き回る記号になり代わる
開きっぱなしのドアから裸が見える
絵画のような草原と海


あなたの唇の側
炎は静かに姿勢を保つ
いま吐息と戯れ踊っても
見通せない
闇の深さが際立つばかり
なにかが尽きるまで
炎は静謐を抱いたまま 
こうしてふるえている
あなたの唇の側
現象は黙秘したまま
ことばからわずかに浮遊する


いま夢見る過去が未来を食む
わたしの豪奢な寝台 
天秤皿の上で半身を想いながら
重さを失くしてゆく
可能性を塵芥とし
すべての糸を切り
追放する 
自らを 永遠に
たどり着けない 月
高く 高く 落ちて


聞く 固く濃く
枯らす呼気 
来る 煙に狂う
ここに汲む声 
きみの書く
神の消された国で
根拠なき禁句を可視化する
苦界との邂逅 航海を
悔いもぜず
菊に囲まれ暮れてゆく
噛みしめる感慨もなく
暗いくらいカラスは駆けて 
砕けたガラス
片眼を切ったら罌粟畑
季節を欠いた隠し事
改ざんせよ
ことばよ記憶を描き直せ


                     (2024年2月17日)









自由詩 代償不明 Copyright ただのみきや 2024-02-17 12:48:59
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