わが性典
中田満帆

                                                                     
北畑正人に寄せて


 姉と妹を持って生まれたことが不道へのことはじめ
 おれのさいしょのまちがいは男の遊びを憶えなかったこと
 男のなかにおれの仲間を見つけられなかったこと
 山口幼稚園での脱走ごっこ
 ひとり遊びの世界に迷ってしまった身分ゆえに
 おれにはまだ語り合えるやつがいない
 夢中になれるのはひとりごと
 子供番組の悪女たちがおれにとって性典だった
 かの女たちをおもい、おれはつよく欲しがったものだ

 やがて13になって、はじめてエロ本を買った
 いまでも懐いだせる、川島和津実、沢田舞香、いのうえ梨花、
 吉崎紗南、上原あやか、風野舞子、友崎りん、──そして大勢の無名人たち
 大人でないことを憎み、子供でいることに甘えていられた時代  
 おれがたったひとり探りあてたページをだれかが運び去ってしまうまえに
 おれのなかで永遠に閉じ込めてしまいたかった

 いま残されたのは近眼のおれ
 なまえを渇望しながらいまだ無名のおれ
 切り取られた街区でだれの恋人でもないおれ
 対話の機会を見失った40まぢかの男のおれでしかない
 あらゆる呼び名、そのどれとも関係のないおれでしかない
 それでもポルノとエロチカを求めて探りつづけるおれ
 おもいでとはもう和解できない
 ひるがえる地平の彼方でおれはたったひとりのオナニストで、
 自身のエロトピアを探求する疎外者でしかない
 燃えあがる旅客機、繰り返される爆発で
 飛び散ったはずの過去というパズルを
 拡大しつづけよう、
 夢のなかまでも。



自由詩 わが性典 Copyright 中田満帆 2024-02-16 14:23:56
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