詩を書くこころ
岡部淳太郎

何かのふりをして歩いていると、詩を書くこころが僕
のなかからふらふらと彷徨い出て来た。そいつはゆら
ゆらと漂うように移動して、道行く人たちをとおくを
見るようなぼんやりとした眼差しで見たり、空を見上
げて、実際にその奥にあるとおいものを見通そうとし
てみたり、いつまでも一つところに留まってじっと考
えこむように黙りこんでいたりした。詩を書くこころ
のそんな様子を、僕は子を見守る親のような気持で不
安げに見ていた。それは曲がりなりにも僕のこころで
あるため、人から変な目で見られてしまう。詩を書く
ことは変なのだ。その変なことを、一人黙々とつづけ
てきたゆえに、僕のなかから詩を書くこころだけが、
いつしか彷徨い出るようになってしまった。今日は冬
の乾いた小春日和で、いかにも詩を書くのにうってつ
けの日だ。詩と冬は親和性が高い。だからなのか、今
日の詩を書くこころはどこかうきうきと嬉しそうに見
える。僕はそれを見守って、それでもまだどこか不安
な気持ちでいた。害はないとは言え、詩が変なもので
あるのに変わりはない。頼むから人に迷惑をかけるな
よ。そう思ううちに、詩を書くこころは一通り遊び終
ったのか、にこにこしながら僕の元に帰ってきた。お
帰り。これから家に戻って一緒に詩を書こう。詩を書
くこころはうなずいて、僕の胸に飛びこんできた。冬
の風にさらされたためか、詩を書くこころは少し冷た
くなっていた。これからこいつを家で温めてやらなけ
ればならないな。僕は微笑み、詩を書くこころと二人
で家路へ急いだ。その時ようやく日が翳り、僕たちの
背後で夕闇が落ち始めた。人々がざわめき出した――



(二〇二三年十二月)


自由詩 詩を書くこころ Copyright 岡部淳太郎 2024-02-15 15:30:17
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