のらねこ物語 其のニ「プライド」
リリー

 河原の橋の下で
 目を廻してぶっ倒れている
 トラ

 「どうしたんだ!お前。気分悪いのか?」

 そばへ寄って来る
 ホームレス仲間たち
 「そういえば、ここ数日…奥さん見掛けんな。」

 「話せば長くなる。」
 とだけ 
 返答する決まり悪そうな口調
 
  それより、もう腹が減ってどうにもならない。
  ここニ、三日は行き先々でどうもついてなくて
  残飯のおもらいが無いんだ。

 「お前、ずいぶん遠慮深いなぁ。どうして言わないんだ。
  こちとらの分、わけてやったものを。」

 仲間の内で一番おもらいの伝手を持っている
 かつて小間物屋の茂六さんの飼い猫だった
 イワシ

 トラの伝手は雑穀問屋の飼い猫のタマなのだが
 このところ 紐で繋がれ中庭にいるため
 逢えない
 
 腕を組み高楊枝のイワシに
 見下ろされるトラは まじめな顔をして
 吐きすてる

 「ばかを言うな!放蕩はしていても、ヒトのものを貰って食わぬわッ!」




 
 第二連目、第六連目、第十連目は『小さなわらいばなし』下巻 
 作・さとうわきこ 協力・松本新八郎
 題目「こじきのほこり」から引用連想表記しました。
    

 


自由詩 のらねこ物語 其のニ「プライド」 Copyright リリー 2024-02-11 12:07:14
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