亡国の海
たま
流されているのだ
この国は
亡国の海へと
海流が運ぶゴミは
何時の時代もおなじだ
と言って
迂闊にも
捨てきれないゴミを
水辺に放置した
平和という
一瞬の隙を突いて
やがて
水辺のゴミは
この国の地下水に浸透する
人びとは
疑う術もなく
その水を飲む
何時の時代もおなじだ
と言って
年金詩人の。Kは。今日も。亡国の海辺。で。
ゴミ拾いをする。Kは。シルバー人材センターの。
会員だった。つまり。ゴミ拾いは。Kの。仕事だった。
海辺のゴミは。年金詩人の。危うい家計を救った。が。
Kは。なぜか。奇妙な不安を覚えた。
この国は。もうすぐ。亡ぶかもしれない。と。
それは。年金詩人の。妄想に近い。思惟に過ぎないと。
誰もが。思うはずだ。
何時の時代もおなじだ。と言って。
何時の時代、も?
いや
その、何時の時代とやらは
もう、やって来ない
この国の
都合のいい歴史は
使い果たしたのだ
Kは。思った。自分はもう。老いぼれてしまっただけだ。
と。この国が亡ぶなんて。そんな妄想は。夢のない老人の。
思惟に過ぎない。と。つまり。Kの。思い過ごしなのだ。
と。
でも。海辺のゴミが言うのだ。
この国は亡びかけている。と。
Kは。問いかけるしかなかった。
この国は。いつ。どうして。亡ぶのか。と。海辺のゴミに。
戦争ではない
災害でもない
この国の人びとが
この国を亡ぼすのだ
それ故に
復興も
復活もない
あと二十年
それが嫌ならゴミを拾え
え。ゴミを拾うの? それでこの国は助かるの?
あと二十年と言えば。Kは。九十二才になる。
おそらく。それは。Kの。寿命だ。
なんだ、そう言うことか
亡ぶのはこの国ではなくて
この私なのか
嘘つきだな お前
この国が亡ぶだなんて
Kは。少し安堵して。今日も。ゴミを拾う。
しかし。
いったい。
何者なのか。
このゴミたちは。
それを語れば。長くなる。あと二十年。
生きて。語り続けるしかない。と。Kは。思った。
それが。
亡国の海辺。に。立つ。年金詩人の。仕事だと。
『終の犬』外伝①