大きな目
リリー

 その人の
 ぶ厚い唇から飛び出した一言は
 熱っぽかった

 「あなた、でしたかっ!」

 (は?…。)
 パリッとしたスーツ姿で
 母の仏前に座る中年男性とは
 全くの初対面
 
 「ぼく、いつも階段で先生の手を取って歩いてました。」

 かつて京都の中学校で長く教員をしていた母
 第二子を 孕って産休に入る迄
 転んではいけないと教材やチョーク箱まで
 この人が持っていたらしい

 真っすぐに私を見る その目は、
 まるで押入れの中から思いもよらず見つけてしまった
 懐かしいモノにでも心捉われている少年の様
 
 


自由詩 大きな目 Copyright リリー 2024-02-10 13:03:37
notebook Home 戻る