泥沼の華
板谷みきょう

豊羽鉱山で働いてた高橋のおじさんと
おばさんの家のみゆきちゃんは
ボクが小学校の時
泊まりに行って
夜中におしっこに起きて怖くて
動けなくなった時に
「一緒に寝るかい?」と
声をかけてくれた
優しい高校生のおねえちゃんだった


酪農家に嫁いで
牛飼いのお嫁さんになって
旦那さんはハンサムな
誠実なイイ男だった
幸せそうな笑顔を零す
みゆきちゃんを見た

それが

2001年狂牛病感染問題で
日本中に激震が走った年の暮れ
みゆきちゃんの旦那が
牛舎で首を吊ったのだ

暫くして
みゆきちゃんも
何処かへ消えて
行方知れずとなった

その後
家がどうなったのか
牛はどうなったのか
誰も彼も口を噤んで
何も話さなくなった

あれから
数十年が経ち
高橋のおじさんが死んで
おばさんも死んだ

その時
別の土地で老人ホームの
ヘルパーになって
慎ましく
暮らしている
みゆきちゃんと会えたけど
何も話せなかった


自由詩 泥沼の華 Copyright 板谷みきょう 2024-01-28 21:20:53
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