合言葉
塔野夏子
君と僕とのあいだに
置きたい言葉があるとして
それはいつも最初の言葉であり
最後の言葉
初めての言葉であり
いくたびも繰り返されてきた言葉
すでに過ぎ去ったこと
あるいはいまだ起こらないことの中にしか
閃かない言葉
あまりにも純粋に言葉であろうとして
かえってかぎりなく言葉から遁れてゆく言葉
その言葉に辿り着くために
けれど決してそれとは明示しないために
君と僕とは数多の言葉と
沈黙を織りなす
そしていつか
その言葉が君と僕とのあいだに置かれたなら
それはひそかに照らし出すだろう
君と僕とが互いに気づかぬまま
交わしていた約束を