ウイルスカクテル
ただのみきや

裏口を叩くものがある
名をもたない
持っていても知る術などない
晴れ着姿の少女の形をしたなにか
扮装と立ち振る舞いがすべてのもの

ほつれていった
むらさきの血のほとばしり
内臓をひも解いて
押し花したノートから
抜け出して斜に笑う

裂くようなヒヨドリの
声の影
冬の太陽に供えられて
すべての自白を質物に膳と床を用意した
夜っぴて舞う 絵筆を素早く引くように

ことばを押しあてる
拒む唇がゆがむほどに
黒い茶碗の奥底の
見通せない闇
中身はいらない
蓑と傘をはぎ取られたまれびとはまれびとたりうるか

付与される記号
剥奪される記号
だが初めから記号以外の身体を持たないものは
転生前の姿にたどり着けるだろうか

記憶の木の実をついばみに来た幻の鳥よ
わたしの四肢に消しゴムを当てよ
美しく欠落させろ
誰もがこの闇を片目で歩くために



                     (2024年1月2日)







自由詩 ウイルスカクテル Copyright ただのみきや 2024-01-02 14:29:22
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