夜警 ~Billie Eilishに
カワグチタケシ

長いおしゃべりが終わった後の
ため息みたいなことばののこりかすを
重ねては貼り付けて
歌をつづる

私は夜警
そぞろ歩き
見守り
行為しない
私は抑止力

私の歌は警鐘ではない
私が警鐘なのだ
と私は歌う

駅前の花壇にその朝一斉に紫色の花が咲く
私の眼は驚く
昆虫たちの驚きはもっと大きいのか
昆虫たちは開花の準備を見ているのか

みどり
私はかつて私たちをうんざりさせたものを思い出す
しばらくうんざりしたのち
数分後にはまた忘れる

自動改札の間の薄暗い床に
白灰色の羽が落ちている

今起こっていることは説明できない
19歳ってどんな感じって言われても
変わりかけた信号に間に合わせようと走り出したとき
古いJBLのBluetoothイヤホンのバッテリーが鎖骨に当たる

私たちは誰ひとりとして
円の中心には存在しない
孤立は増えても広がらない
孤立と別の孤立が離れて響き合う

おはよう
昨日からやってきた人と
おやすみ
明日へと去り行く人を見送って

昨日からやってきた音と
明日を鳴らす音を重ねて

誰もが新しい神を求める時代に
自分を歌うことで
自分を手放して
わたしはあなたがた
ではなく
わたしはあなた
と歌い
新しい宗教の
信仰の対象となるのを拒む

ぼんやりとした痛みを歌にして
新しい世界を敵に回しても
君だけは君の味方であれ

寛容性を放棄した広大な国土の
小さなベッドルームで

 


自由詩 夜警 ~Billie Eilishに Copyright カワグチタケシ 2024-01-02 00:43:13
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