ある肖像画
レタス

ほら、見てごらん
指先が少し光っているよ

表情のない肖像画が呟いた

ベランダに出て
夜空に透かしてみたけれど
少しも光っちゃいない

ん… 指が石化している
でもキーボードを打つには問題ない

肖像画はまた呟いた
眼が少し光っているよ

洗面所の照明を消して
鏡を見たけれど
少しも光を発しちゃいない

ん… 見るものすべてが輝いている
でもちっとも眩しくはない

肖像画がまた呟いた
耳が光っているよ

部屋のテレビを消して
耳をそばだてていても
何も聴こえなかった

ん… 深海からのアダージョが聴こえる
でも少しも悲しくはない

肖像画がまた呟いた
全身が光っているよ

部屋の灯を消して
姿見の鏡の前に立つと
ぼくは透明な結晶になっていた

肖像画に聞いてみた
彼は無表情のままで
何も語らなかった

やがて何も不自由はなくなり

ぼくは空間に溶けていった


自由詩 ある肖像画 Copyright レタス 2023-12-19 23:39:58
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