幼い頃の夢
レタス

私は開襟かいきんシャツを着て
路地を左に曲がり
ズボンのポケットから白いハンカチを取り出して
首筋を拭ぐった

家の山茶花の垣根から
割烹着かっぽうぎを着た妻がアイロンをかけ
幼い娘がシャボン玉を吹いている
妻たちは私に気付かず
足早に家の前を通り過ぎた

これでおしまいだという感覚が背中をよぎ
しばらく彷徨さまよ
雑木林に囲まれた空き地に出ると
真ん中にあらゆるガラクタが積み上げられ
近づくと赤く点滅するボタンがあった

私は戸惑った

このボタンを押せばすべてから切り離され
いまだ見ぬ別世界に行ってしまうのだ

未練と希望がせめぎあう
何故か未練や希望はどうでもよくなって

点滅するボタンを押してしまった

これでもう妻子ともお別れだ
私は地獄のような後悔を刹那に感じた

気付くと私は混沌とした沼に溶けて
うなり もがいていた

天空に白い光がひとすじ
そこには三人の聖人が立っている
言葉もなく祈った

刹那

光の上に立っていた私は

来世に蘇生したのだった


自由詩 幼い頃の夢 Copyright レタス 2023-12-18 23:21:35
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