メリークリスマス
由木名緒美

まずしい国
ゆたかな国

お金がまずしい国
心がゆたかな国

心がまずしい国
お金かゆたかな国

愛している人がいる国
美しい秘境をかくす国

山岳が虹を掲げる国
大河が祈りを充たす国

サンタクロースは星空を蹴る
寝ぼけ顔に満面の笑み咲かせるために
一年分の幸せをリボンで包みあげて

幸せな子には信仰なんていらないのかもね
神さまのように笑い転げることが、君を周りの人々の天使に変える魔法なんだ

きっとね


遠い日に
イエスが拷問の最果てに愛を叫ばなければ
幾億の命が争いに屠られることはなかったかもしれない

神か否か
祈りか犠牲か
言葉は人を傷つけては救い
刃は命を奪い、また創造していく

選べない選択肢の中で
どちらに天秤が振れるかなんて
石ころを蹴飛ばしても
未来には跳ね返ってこない


悲しくて悲しくて
涙が止めようもなく床を汚す夜

嬉しくて嬉しくて
「ありがとう」を誰かに叫びたくなる街角

弔いの祝詞に
震える声がタクトを望む黒い列

言葉に出来ない輝きを
恋人の瞳の奥に見出す温もりの中

「かみさま」

という音が
どれほどの歴史の行間を歌い上げてきたか

願わくば
叡智を祈るあなたが
仏陀のように
独り凛と佇みながら
宇宙を廻す言葉を捏ねあげられますように


聖夜に降るものが
つららのように
幸福を破るミサイルだったとしても
固い鉄を溶かすものもまた
私達の涙でなければいけない

血と鉄と愛を飾り付けた
クリスマスツリーの頂上に
輝く星は何を映すのだろう

捧げられるキャンドルナイトが
偽善的だと嘲笑されても
偽悪的な冷笑を向ける先が光で眩むくらい
愚かに灯りを灯し続けて

あなたを憎み続けた神が
あなたを抱き返す腕の中で
あなたが愛につまずく朝に
遠ざけ続けた神の姿が
あなたの瞳を見返す夜に

空っぽのお腹で世界中からはぐれてしまった子が
空っぽの靴下に寒さを重ねる夜
乞食のように不幸を訪ね歩いたあの人の腕は
誰よりも先に探し出して腕に抱き寄せる

いつかサンタクロースは姿を現すだろうか
地球上のすべての人々の心を包んだ
祈りという名のリボンを解いて

願いは叶うかだろうか
溢れてしまうくらい
笑顔のクリスタルボウルを飾り付ければ

目覚めるだろうか
新しい時代は
崩壊するだろうか
古い時代は


サンタクロースが
世界中の子ども達を抱きしめる朝は来るかしら

あなたが大切な人を守れる朝が

あなたが心の底から微笑む日が

私が私を信じられる日が


来るかしら

来るかしら






自由詩 メリークリスマス Copyright 由木名緒美 2023-12-15 20:03:55
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