ラジオが死んだ夜
ホロウ・シカエルボク


ずっと鳴らしていた真空管ラジオが
ブツッと言ったきり黙り込んだから
彼の代わりになるようなものを探しに
電気屋に出掛けることにした
駅の近くの大きな店
ウンザリするほど照明の眩しい…

売場のそばにある自動販売機の缶コーヒーは、必ず
欲しくもないのに買って飲んでしまう
後味が好きじゃないことだって
重々承知のこの頃では御座いますが

ビバークのポイントを探す遭難者のようにしばらく
ラジカセやラジオの陳列を眺めて歩いたけど
どいつもこいつもUSBだのSDだの
胡椒がウリのフライドポテトみたいなキャプションで
ずっと鳴らしていられるラジオが欲しいだけなのに
クリアーなデジタルなんてなにかいけ好かない
結局何も買わずに出てきた

部屋で沈黙しているラジオのことを
部屋で沈黙しているラジオのことを

人生で二十七度目に自分をぶち壊そうと考えた時も
思い留まらせてくれたのは彼が教えてくれた下らない歌だった
仕方が無いので夕食の買物をして家に帰った

どうして黙っているの
真空管は永遠のモノクロ
燃え落ちた空みたいに瞳を閉じている
どうにもやりきれなくて
殺意を込めて野菜を切り刻んだ、バツンって
まな板までいじめながら

出来上がったカレーは美味だったけれど
ラジオが死んでしまったから
スパイスが舌に針を刺した




二十八度目は
誰か助けてくれるだろうか



自由詩 ラジオが死んだ夜 Copyright ホロウ・シカエルボク 2023-12-12 21:38:39
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