さつき
岡村明子

さつきに許されないうちは
五月をさつきと呼ばない
ことに決めた
さっき

しどけ
ぼんな
あいこ
こごみ

その不思議な名前の来歴は
山に入る者だけが知っている
雪解け
呪文のように
根を張る
産毛のように
山をつつむ
山の菜

都会はとっくに
夏の陽気だ
ベッドから這いだし
汗ばんだ体をシャワーで流す
朝の浴室
湿気た空気
ドアからもれだす

朝もや

の中から
みちのくの母の顔
そして軍手があらわれる
右手に山菜の束
左手にビニール袋
足下に
小さないとこの
さつき

「食べ方わがんねかったらいつでも電話してけ」

母からの段ボールには山菜が山ほど詰まっていた
山のものは日にちを置くと固く根のようになる
山に帰るというのだそうだ
都会のマンションの台所で
捨てた母と
捨てない母を
思って泣いた



自由詩 さつき Copyright 岡村明子 2005-05-16 19:10:54
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