黄金
ただのみきや

十二月 早朝
いつものように高台通りを歩いて仕事に向かう
右手の歩道と山側の住宅地の間はなだらかに傾斜して
自然の植生を活かした広い公園になっている
この季節には通りに面した落葉松からまつが一斉に散って
朝の路を黄色く染めていることがある
人気のない時間にそれを踏むのはさながら絵手紙の中を歩くよう
去りまた来たる見えざるものたち
古き友らの無言の挨拶を受けとったかのようでなにやら心地よい
それが降り始めの淡雪と重なったり
濃い霧の中で霜を帯びていたりするとまた違う趣があって
足を止めては景色を吸い
空気を全身でかみしめてみる
春の桜の花びらが敷きつめられた道や
秋の銀杏並木などでも同じように感じることがあるけれど
この日はそれ以上のものだった
もう十五年以上この道を歩いているが
初めてなのだ こんな日差しは
低く垂れこめた厚い雲と雲の間
そのあまり広くない裂け目に澄み切った濃い青空があって
目覚めたばかりの太陽の
まだ炎をまとったままのその顔から赤みを帯びた光が真横に走り
通りに面した公園の落葉松を金色に燃え上がらせている
小さな松葉一枚一枚のけば立ちと冷気のゆるみによる湿り気が
巨大な金屏風をつくり上げていたのだ
わたしは目を見開いたり細めたり白い息がさえぎらないよう
呼吸を止めたりしてしばし見入って 否 魅入られていた

こどものころ金色は好きではなかった
こどもらの間では折り紙の中で一番貴重な色は金色だったが
わたしは銀色のほうがずっと好きだった
銀は白につながるものがある
白には穢れない清浄さを感じていた気がする
ところが金は黄色につながり(黄色も好きではなかった)
なにか汚らしい糞尿に通じるものを感じていたのかもしれない
大人になって金の経済的価値に魅力を感じるものの
所有する気にはならないしそんなものが買える暮らし向きでもなく
かと言って金メッキのアクセサリーをぶら下げる趣味もない
ようするに金ピカが今でも好きではないのだが
この朝見た金色はまったく違っていた
それは森閑として凛としてどこか幽玄を帯び
枯れたいのちをほんのひと時みずみずしく燃え上がらせていた
それは深く記憶に刻まれて消えることのない鮮烈な印象となって
さらに熟成され美化されてゆくことだろう
わたしが所有した黄金の輝きは



                          (2023年12月9日)











自由詩 黄金 Copyright ただのみきや 2023-12-09 11:05:50
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