abyssal
医ヰ嶋蠱毒

底翳の眸で深淵を覗いた先
脳髄を酩酊させる郷愁の蟲が
意識の裏から青褪めた肢を伸ばす
ドス黒い墨を打ち撒けたように
群れを成す陰鬱な夜の眷属の
屍を蒐めて瞼を展けば
銀色の鮫が水面の満月を過るから
貴女の凍る皮膚を愛撫するとき
暗い孔がランタンの燈明をぞわぞわと犯す今
身を投げよ
肺臓から呼気を搾り切った末に齎される
甘い窒息と切創の愉楽
躊躇い疵が問う
「煉獄は視えましたか?」
肉體を満たす
孰れ還るべき母胎の聲
掲げられた箴言を胸に
一握りの啓蒙を孕み沈下する悪夢と
粘る闇に縫合されたトラウマを背に
モノクロームの海で私の肉が啖われてゆく
解剖される未だ温かな記憶の残滓と抹香鯨
骨を埋めて堆積した智を自らの墓碑として跪拝せよ
(此処にホモ・サピエンスの跫音は響かない)
繰返し祈りを唱え白濁する眸の奥の聖性はアビサル
「なあ、溺れるような鐘の音が聴こえるかい」


自由詩 abyssal Copyright 医ヰ嶋蠱毒 2023-12-08 18:41:10
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