道標にしていた
ワタナbシンゴ



山田太一が亡くなった。
もう新作が出ることはないと思っていたが、訃報に接して、改めて彼の作品を見ることができない現実を知る。


私にとっての山田太一脚本作品は、人生の道標としていたようなところがあった。
ひとの心の弱さや狡さ、可笑しさ、上手くいかなさ、誰しもにある嘘やこだわり。そのすべてが群像劇の中で、そこに発せられるべき言葉として作り上げられていて、すべてを言いきることもなくて。


今日は何かきちんと語るというより、過去の作品を見ながら、一日追悼の日を過ごしていたい気分でいる。


昭和一桁世代の表現者たちが次々とこの世からいなくなる。この昭和一桁生まれの意味を知る、少し前の歴史の記憶も彼らと共に失われてゆく。


「冬構え」「今朝の秋」「ながらえば」山田太一と笠智衆の三部作がYou tubeにあるので、お昼から立て続けに冬構えと今朝の秋を久しぶりに見ていた。齢をとったせいか、20年前に見たときよりもずっと心に染みる。


どちらも笠智衆の佇まいと表情が素晴らしいし、冬構えのは小林政広監督の名作「春との旅」の脚本がモチーフにしたのではないかと感じた。終わり方も素晴らしかった。


「今朝の秋」は、なんだろう、見終わったあと本当に見てよかったと思った。それぞれの人の思惑や心の揺れが、でも深刻にならず、それでいて生々しく、一つの物語として見事に描かれている。評論めいたことは書かないので、ぜひ見たことのない人は、この機会に触れてもらいたい作品。武満徹の音楽も素晴らしい。


まだ山田太一脚本作品を見たことがない方には、You tubeに「ふぞろいの林檎たちⅠとⅡ」が上がっているので、こちらから見るのもいいと思う。もちろん「岸辺のアルバム」も「男たちの旅路」も。


これからご飯を食べて、「ながらえば」を見て、今日は一日山田太一作品と共に過ごそうと思っている。






散文(批評随筆小説等) 道標にしていた Copyright ワタナbシンゴ 2023-12-02 18:52:57
notebook Home 戻る