のらねこのブルーズ
竜門勇気


のらねこに水をもらった
酔いつぶれて公園で寝てた
もうどうしようもなかった
なにもかもが不穏な結末につながる物語
主人公は、酒を飲んで公園で倒れた
そして二度と目を覚ましたくないと
夢の中で叫んだ

のらねこは優しかった
追い立てられてここにきた
いつのまにか優しさが
ほかの優しさを壊してしまったからだった
何もかもが不穏に感じる夜明け前
あんたらと同じには思われたくはないな
そう言って水をくれた

僕を思い出してくれよ
ときどきでいいさ
僕を探してくれよ
思い出した時でいいさ
どこにも町にはいるだろ
猫を見たときに思い出してくれ

のらねこの水は冷たくて
カルキのにおいがしておいしかった
必要なものを買いに来た
それを手にして帰る
そんな気分だった
今までどこにいたの?
どこにでも

夏によく似ていた
電柱に貼られた写真にも似ている
のらねこは顔をなめて

僕を思い出してくれよ
ときどきでいいんだ
探してるやつがいたら探さないでくれって
泣いてるやつがいたらほらそこにいるよって
そういってくれ
夕暮れに名前を呼ばれたら
僕だって気持ちを変えるかもしれないって
そう伝えてくれよ

のらねこに水をもらった
ひどく暑い日だったが
真冬のことだったかもしれない
お互いに名前を伝え合って別れたが
結構前の話だったんで
なんだかおぼろげにしか思い出せない
あの水の温度だけが口の中に残っていて
温かいものや冷たいものを口に含むとき
なんどものらねこを思い出す
なんどものらねこを思い出す



自由詩 のらねこのブルーズ Copyright 竜門勇気 2023-11-29 21:03:37
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