M街のカフェで
番田 

カフェの中というのは、不思議な空間だ。そのついたテーブルは自分のものではあっても、同時にそのカフェの客のための場所でもあると言えた。カフェ全体は、街とは隔てられた場所でもある。そこは店であって、通行人に対して開かれた場所ではないのである。そのテーブルにつくには何がしかの注文が必要であって、カップをテーブルに置いていることが必要であると言えた。テーブルからは、通りを行く人が外に見える。雨の日は傘を差している人が通り、晴れた日には犬を連れて散歩している人がいたりする。向こうには銀行があって、私がテーブルについている時間には開いていることはなかった。だからそこからこちらを覗いている人はいない。いくつかの車が、通りを行き交っていた。カフェには二階のスペースもあって、その奥には喫煙スペースがもうけられていた。だから、そこでコーヒーを飲んでいると、出入りする人が多くいた。通りには、そのような場所がなかったからだろう。喫煙者にとっては、オアシスのような場所になっていた。私は、そこに入ったことは無かったが、出入りする人は男女年齢問わず、様々だった。私はいつも、テーブルで昔のことを考えていた。苦労をともにした同僚は、今どこで何をしているのだろうかと。私の働いていた目黒の会社に、今は当時いた人は一人もいないようだった。だからその思い出だけが、そこには残っていた。そして、このテーブルに、それは思い出されていた。僕の心の中に、確かに存在していた。


散文(批評随筆小説等) M街のカフェで Copyright 番田  2023-11-24 01:44:39
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