埋火
夏井椋也
風が
季節を閉じようとしている
冷たい唇を噛んで
もどかしさを押し止めた
何も語らなかったから
世界は濁った
足跡もつかない
綺麗なコンコースの下では
臭い泥水が蠢いている
何処にも行かなかったから
世界は縮んだ
見慣れた街の
綺麗に並んだ街路樹の下で
味のしない言葉を拾い集める日々
水鳥が
水面を裂いて遠ざかる
岸辺に打ち寄せる漣が
水面に映った
私の埋火を散らそうとする
そろそろ
火を点けなければならない
もう一度
季節が閉じてしまう前に
まだ
間に合うかもしれないし
もう
間に合わないかもしれないが