埋火
夏井椋也


風が
季節を閉じようとしている
冷たい唇を噛んで
もどかしさを押し止めた

何も語らなかったから
世界は濁った
足跡もつかない
綺麗なコンコースの下では
臭い泥水が蠢いている

何処にも行かなかったから
世界は縮んだ
見慣れた街の
綺麗に並んだ街路樹の下で
味のしない言葉を拾い集める日々

水鳥が
水面を裂いて遠ざかる
岸辺に打ち寄せる漣が
水面に映った
私の埋火を散らそうとする

そろそろ
火を点けなければならない

もう一度
季節が閉じてしまう前に

まだ
間に合うかもしれないし

もう
間に合わないかもしれないが




自由詩 埋火 Copyright 夏井椋也 2023-11-18 14:31:20
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