無重力の殺意
菊西 夕座

詩をさがしても必シになることはない
糸をたらして蜘蛛のようにおりてくる
視点と蜘蛛の交差点の上に支点がある
蜘蛛を息でゆらしても支点はぶれない

背と腹を交互にむけながらまわる蜘蛛
あたかも死と生がくり返される悲喜劇
電気でも消すように蜘蛛を下にひくと
支点からまた一匹の蜘蛛がおりてくる

引けば引くほどつみかさなる黒い貝殻
いつのまにか蜘蛛が巻貝に転じている
やすやすとあたえられる生殺与奪権を
やすやすと行使して貝をトイレに流す

無重力の殺意が罪の意識をゼロにする
それをくつがえせるのは詩だけであり
詩点はいつのまにか私を宙吊りにして
私の口から言葉の糸をぶらぶらさせた

口蓋は繁殖力の旺盛な泡ふき貝となり
抜き身が舌となって饒舌に這いまわる
目は蜘蛛にかわって穴から抜けだすと
糸ひく口から地上の便器へぶらさがる

虚空で盲目となった私は体内を殻にし
刀を抜かれた鞘のごとき洞を這いずり
外にみた仮象の世界をぼんやり象って
くりぬく鋳型に夜の寝床をこしらえる


自由詩 無重力の殺意 Copyright 菊西 夕座 2023-11-12 22:44:23
notebook Home