火の月 (旧作)
石村



それはむしろ沈黙の季節か
静けさがあどけない恋を焼くのは

お前の微笑みに宿るいつもの翳が
僕の限りない望みをひそかに砕くのは

「フォーヌよ七月の訣れの笛を吹け
 フローラは永遠の時を得た
 なぜなら今を失くしたから」

「それなら地の果てで 太陽と薔薇に刺された僕の血を
 火のほかの何が購つてくれるといふのか?」

たれも涙を見せて消えて行くことはない
あてのない思ひにすべてを託して
深い空を見上げてゐるのだから
やつれた緑を揺らす光のはざまに
翼をたたんでもう飛ぶことはできないのだから!

永遠は愚かさに燃え落ちて
海に溶けてゆく宝石
僕が追ひかけてゐたその夏を
通り過ぎて行くのはやせた火の月の天使の列

だから陽に焦げた街に濡れた西風が吹く間
ただれた白のカンバスに 遠くの海の青を塗れ


       (一九九六年七月八日)



自由詩 火の月 (旧作) Copyright 石村 2023-11-02 15:23:00
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