初冬の風景 (旧作)
石村




何でもないやうな
大したこともないやうな
永遠なるものが流れてゐた。
そこらの小川のやうにゆつたりと流れてゐた。

しめつた、つめたい風が吹き
茜の雲の、一群ひとむれ
彼処かしこの山に、消えて行く。
それは、別段、何と云ふほどのこともないけれど、
何だか、只寂しいばかりのやうなものだけれども、
それを見てゐると、僕は非道ひどく胸がへこたれて、
得体の知れない、想ひを想ひだすのだ。
夕暮れ時の郊外の街は坦々と和やかで
道行く人々、走り過ぎる車等、
皆何だかえらいものに見える。

ああ かうやつて永遠に向つてお辞儀するのは
それは、いかさま苦労ではあらうけれど、
それは必要な、必要なことなのだ、
この上なく大事な、ことなのだ……

既に山々も睡る時候となり
何でもないやうな
大したこともないやうな
永遠なるものが流れてゐた。
そこらの小川のやうにゆつたりと流れてゐた。


     (一九九一年十一月十三日)



自由詩 初冬の風景 (旧作) Copyright 石村 2023-10-28 13:58:29
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