陽の埋葬
田中宏輔

  庭にいるのはだれか。 (エステル記六・四)
  妹よ、来て、わたしと寝なさい。 (サムエル記下一三・一一)



箪笥を開けると、
──雨が降つてゐた。

眼を落とすと、
──雨蛙がしゃがんでゐた。

雨の庭。

約束もしないのに、
──死んだ妹が待つてゐた。

雨に濡れた妹の骨は、
──雨のやうにきれいだつた。

こぼの雨の庭。

椅子も、机も、卓袱台ちやぶだいも、
──みんな、庭土にはつちに埋もれてゐた。

死んだ妹もまた、
──肋骨あばらぼねの半分を埋もれさせたまま、

雨に肘をついて、待つてゐた。

肋骨あばらぼねの上を這ふ、
──雨に濡れた蝸牛かたつむり

雨に透けた蝸牛かたつむりは、
──雨のやうにきれいだった。

手に取ると、すつかり雨になる。

戸口につて、
──扉を叩くものがゐる。

コツコツと、
──扉を叩くものがゐる。

庭立水にはたづみ

わたしは、
──何処へも行かなかつた。

わたしは、
──何処へも行かなかつた。

死んだ父もまた、
──何処へも行かなかつた。

戸口につて、
──繰り返し扉を叩いてゐた。

戸口につて、
──繰り返し扉を叩いてゐた。


自由詩 陽の埋葬 Copyright 田中宏輔 2023-10-30 02:01:42
notebook Home 戻る