黒犬の眼球
中田満帆



 
 慈悲とつれあって深夜のスーパーを歩いた
 あるいは慈愛とつれだって萩の花をばらまいて歩いた
 おれたちにとっての幸運が猫のしっぽであったような、
 あるいは取り残された者たちの最後のワルツであったような、
 そんな心持ちで郊外を歩いたんだ
 まだうら若いきみの心臓にはどうやらとどかないようだが
 いったいどれほど距離をおれたちは歩いたのだろうか
 慈悲はいう──おまえに救いがないと
 慈愛はいう──おまえに愛はないと
 ひるがえったマントに黒犬の眼球を光らせて、
 おれたちのまえをいまきみが通り過ぎてゆくんだ。


自由詩 黒犬の眼球 Copyright 中田満帆 2023-10-24 13:03:35
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