玄関
リリー

 
 リビングで 朝
 外の光がもれこんでいる廊下の床に驚いた

 玄関が 開いているのだ

 シルエットの人影
 何故だかすぐに 母だと分かった
 どうして 敷居を跨がないの?
 こちらを見詰めるだけで
 
 コートを着た体は冷え切っている様
 疲労あらわで目が窪み
 寒い道を
 永く 歩いて来たのだろう

 「早く、お風呂用意するから!」
 温かいお茶を入れるから 早く中へ
 と 促すのだが 
 還って来た母は無言のまま立ち尽くしている

 素直に言えなかった
 「ごめんなさい」や「ありがとう」
 話したい事が山ほどあるのだ
 気ばかりせいて
 玄関へ 近づくと
 
 そこに鉄空の湖畔広がり
 誰も いない
 そんなはずはない!
 「ママッ!」
 自分の声で、目が覚めた

 何て 寝覚めの悪い朝
 リビングから見る
 廊下は暗く 玄関の扉は閉まっている。




自由詩 玄関 Copyright リリー 2023-10-22 12:57:43
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