コインランドリーのテーブルで
番田 

何も言葉を無くしたらどうなるだろうと、思いつつも牛乳をコンビニで買ってきた。知り合いのいないこの街で。川だけが友達のような気がする。履き慣れた靴を僕は履いていた。その存在すらも忘れていたような気がする、僕は、コンビニから牛乳を持って、出てきた。ドアが開いて歩きだすと、流れていく景色に現れる見慣れた居酒屋や入ったことのない床屋。そこを曲がると僕の住むアパートの通りに入った。そんなことは、そして、どうでも良かったのだ。何でも無い、景色の中にあるもの。僕はそれからまた、為替相場のことを考えていると、ポケットの中のスマホの存在が気になった。僕は川は今日も流れもなく、月を映している鏡のように見えた。僕の知らない街に続いていく川の知る、景色を歩く。時間が川だとしたら、遡ったところにいる僕は、朝の報道番組や、色々な、生きてきた時間を、僕は思い出すのだろう。僕はもう、そこに、僕は思うように戻ることはできないのだが、思い出す、繰り返すようにして。誰もいない工事現場に降っていた雨を。ハワイに着いた時に僕を包んでくれた生暖かい風。青年になった僕の通い慣れていた渋谷のクラブに流れていた音楽を。そんなことを今日も考えながら、生きていた。


スポティファイから流れている音楽に今日は寒いのだろうと思う。人は誰もいない。外には畑が広がっている。土の匂いが少しする時。自転車が走り抜けていく時に曲は、R&Bの懐かしい歌に変わった。皮膚病を治すために長い道のりを歩いて病院通っていた。昔ジョギングコースを走っていた頃の僕の姿を思い出しながら、そこへ営業車で訪れた僕の背中。秋の夕暮れ時だったのか。夏の暑い日だったのか。スーツ姿でコインパーキングに車を停めた僕の耳に聞こえた学校のプールからのはしゃぎ声を思い出す。あの会社を辞めてから、どのくらいたったことだろう。


散文(批評随筆小説等) コインランドリーのテーブルで Copyright 番田  2023-10-21 13:28:42
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