左目だけが痛い
モリマサ公

北半球で大陸が
あかくもえはじめる
地球儀を横切る
オレンジのすばやい牡鹿よ
君の足は細かったね
ツノは複雑で立派だったね
くるぶしから覗いても
隙間は無くなっていて
何も見えない

突然雨が降り出したので
草刈りの跡がより一層濃いものになった
どんぐりをパチパチ踏んで
チャリを漕ぐ
いつも40分かかった
白檀の匂いのトイレットペーパーで
結界を作る人々が
こっくりさんの話に夢中
のろわれているのは誰なんだろう
バンドの練習にいこうかな
と言ってた恋人が布団の上で
最終的にゴロゴロしはじめる
さっきまでは
ワークマンに行って金属の入っていないベルトを買い
セカンドストリートでガラスでできたボウルを買って
ココスでピザと鉄板にのったカルビなんとかを食べ
どの入り口でもアルコール消毒をして
なかなかこれという始まりをみせない

疾走感と共に始まる今
また電気と換気扇を消し忘れた何回目かのあたしがいた
またチャリの見ている夢の中で
生きていることを忘れたあたしが
それを見ている
そのままエレベーターで一階に行き
40分かけて夢の中を漕ぐ
そうしてチャリの記憶にすぎないあたしは
記憶だったことを忘れて漕いで
記憶の中の雨を
繰り返して
汗ばんでいる




 


自由詩 左目だけが痛い Copyright モリマサ公 2023-10-12 11:29:30
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