スナップ・ブック
由比良 倖

空の甘い匂いがします。今がいつの季節なのか分からなくて、目眩がします。卵細工の中みたいな明るさの中で、空想を組み立てていくことは楽しいです。遠い知識や、場所や、言葉は、回転する小さな粒のようです。粒は集まり、また小さな遠さを形成します。それは私の中にある、小さな味覚を刺激します。小さな、小さな、死の味がするみたいです。

葉っぱの影が黒板の表面を流れていきます。教壇の上には青い皮表紙の本。夢に見た衛星についての本です。席に座った生徒たちは、みんな人形。真珠貝の静けさ。微動だにしない。天井から生徒たちの頭上すれすれまで、明るい霧が満ちてきます。

Uの店で、ガラスの冠に入った水を買った。手の平に載せると、それは、粉っぽい空の光を反射して、傷付いた虹の色を散乱させた。道路の右側には大きく「右」と書かれていて、左側は白い虫の死体のように見えた。

Uの道路はだだっ広く、雨が降ると、路面は、まるで女の子の背中のように滑らかに光って、その背中は、天からの恵みを、一身に受けているようだった。

Fではテクノロジーの匂いがした。すみれ色のプラスチック。

赤い爪を噛んだ。Yの店で厚紙のようなケーキを食べた。私は瓶の妖精を見たような気がした。椅子の背に沿ってなだらかに、黄色いフィラメントが貼られていた。

ダークライト。遠くにあるので台形に見える、地中の日暮れ。
Yの街では木製の二階建てバスに、梯子を使って上った。
刑務所みたいな観光地だった。看板は青いアルマイトで。

私は寝入り端に理数系のジョークを作る。宇宙として産まれるという一大仕事が終わったのだから、眠たげな、宇宙を突き抜けて、あるいは……


自由詩 スナップ・ブック Copyright 由比良 倖 2023-10-05 13:20:39
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