リリー

 何時も
 碧く拡がって
 動くとも見えず動き
 光るさざ波が 僅かな物語を示す

 岸壁に立って
 私が居る
 スカートをひるがえす
 いっそ このスカートが風をはらんで
 海に たたき落としてくれたなら

 たえ間ない
 潮流の もだえ
 紫色のけむった山の連なりに
 海が鳴る
 初冬だ

 暖かい目があった
 厚い胸があった
 長い道だもの
 この人で良いのだろう
 と思った夜がある

 けれども躯中が乾燥していて
 碧ばかり のみこみたいとねがうのです
 海に浮かぶ私の亡骸は
 あの波の立つ所に、
 諦めたのだったと何度も言いながら
 心弱く思い出す 人の影

  外はまた 雨なのか?
  二十時半回る腕時計
  酒の香が 今夜は何故か胸にしみこまず
  店を出れば

 小雨濡れる靴音が切ながって
 三歩離れた後ろから ついて来るのです
 
 
 


自由詩Copyright リリー 2023-10-04 08:36:14
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