黒揚羽蝶
リリー



 男が 居た
 美しい男だ
 あぜ道沿って咲き誇る
 紅のみち
 彷徨って舞いわたる

 男が 居た
 彼は蒼白い顔に大きな目を光らせて
 おしゃれなスーツで包む
 細い しなやかな躯に浸る程
 酒を浴び
 煙草をくゆらせる

 「心が痛むから死んでしまおうかしら?」
 ささやく若い娘に
 「そうだね 僕と?」
 ふいと 秋の香しいベリーレッドな唇へ彼が
 キスで答える

 恋のまね事の苦しみも忘れた
 儚い 悲しみを持った男の美しさ
 瞬時の真実でもよい
 求める その黒き羽の美しさ
 溢れるべき涙もなく
 声なく物語る
 リンプン

 秋の過ぎ去れば
 行き処ない心 
 唯 独り
 あてなく虚しく天に還る


 


自由詩 黒揚羽蝶 Copyright リリー 2023-09-26 22:06:55
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