裸足 (旧作)
石村

遠い話とほいはなし
ああそんなところだね
いまとなつては
大気は海の継子じみて
地中海色のタイルの
すました青磁のなかに透けてゐる
カラカラした浴場のなかで昼寝してたら
いつのまにやらお忍びの西風ゼフュロス

遠いところはかぐはしい
月桂樹を折り敷いた神殿があつて
マーブル乙女の裸足のそばに
すずしくひかるオリイヴがひとつ
空はすみわたつた曠気にみち
時は経つやうに見えるばかりで
サイレーンの囁きも
きこえてこない
あんまりな永遠

遠い話
ほんとに遠い
少女の衣擦れがかすかに
かすかに
風はさやかな昼下がり
まどろみ
まどろみ


(一九八九・十・八)



自由詩 裸足 (旧作) Copyright 石村 2023-09-26 10:39:01
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