裸足 (旧作)
石村
遠い話とほいはなし
ああそんなところだね
いまとなつては
大気は海の継子じみて
地中海色のタイルの
すました青磁のなかに透けてゐる
カラカラした浴場のなかで昼寝してたら
いつのまにやらお忍びの西風
遠いところはかぐはしい
月桂樹を折り敷いた神殿があつて
マーブル乙女の裸足のそばに
すずしくひかるオリイヴがひとつ
空はすみわたつた曠気にみち
時は経つやうに見えるばかりで
サイレーンの囁きも
きこえてこない
あんまりな永遠
遠い話
ほんとに遠い
少女の衣擦れがかすかに
かすかに
風はさやかな昼下がり
まどろみ
まどろみ
(一九八九・十・八)