私の指紋主義
入間しゅか

細長い札のようなものを入れた袋を閉じるためにセロハンテープを貼る。一緒に指紋も貼る。私の指紋が採取されて、どこかの工場で加工されて、梱包されて、商品として全国流通してしまう。細長い札のようなもののノベルティとして私の指紋が出荷される。私の指紋は一家に一枚検出される。インフルエンサーが私の指紋を今月のマストアイテムとして紹介する。炎上系ユーチューバーが私の指紋を使ったタチの悪いドッキリを企画して見事に炎上する。ネットの声「通行人にいきなり指紋を見せるとか倫理かバグってる」「笑っちゃいけないけど最後のおっさんの反応が草」「これで笑うやつ小学生か子供部屋おじさんだけやろ」等。その後暴露系ユーチューバーによって私の指紋ドッキリはヤラセと判明する。特定班がヤラセに関わった人物の個人情報を次々特定していく。肝心の私の指紋については誰一人として調べるものはいない。その頃から私の指紋について疑問を持つ人々が現れる。指紋についての諮問が行われる。口頭試問、尋問、拷問まで。私の指紋はいつしか反体制のシンボルとなる。私の指紋を掲げた反政府ゲリラが組織される。私の指紋の革命運動に多くの芸術家が参加を表明。私の指紋主義文学、私の指紋主義の絵画や彫刻など。世界規模の運動に発展する。いくつかの国ではクーデターによって私の指紋主義の国家が生まれる。情勢悪化に歯止めをかけるために先進国が一段となって協力する意思を示す。で、細長い札のようなものの原材料である細長い札のようなものになる前のものを輸入に頼っていた我が国では軒並み細長い札のようなものの価格が高騰する。そして、生産終了。私の指紋は出回らなくなる。私の指紋主義革命も一気に廃れる。先進国が私の指紋主義によるテロとの戦いに勝利したと高々に宣言した。私の指紋は時代の遺物となる。その資料は国立私の指紋記念館に所蔵さている。


自由詩 私の指紋主義 Copyright 入間しゅか 2023-09-26 08:24:49
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