逃避
由比良 倖

孤独を、記憶を睡眠薬で噛み潰す。
私の身体が音楽、点になるのを待つ。
LEDが向こう側で密柑色に暮れていく。
画面の奥で電子が踊っている。
RGBの奥へ、私の顔が流れていく。
私は、私が私になるまで動かない。
電話で、中の人に話しかけてた時代は終わった。
今は何処にも中なんて無い。何処にも、人なんていない。

CMYKの滑らかさ。
赤が好き→白い矢印の中で眠る。
逃避、とは何から逃げること?
全てがグラフィックでデザインされてて、点線越しの
幽霊(幸せなホログラム)をディスプレイに泣きながら叩き付ける、癖。
逃避の先にはスプレー缶で出来た街灯。
全て優しく、包みかくさず、揺れていく夜。ライト。反応。

1億年でも、たった5メガバイトの、得られない距離でも、
私はただ待ち続ける。
ベッドなんて要らない。線になって眠る。
私はただ待ち続ける。
毛布の中で眠るとき、私は毛布に縫い止められた、
何処かの国の、平坦な国旗みたいに。
みんなみんなそう、デザインされているのだから。

骨までただしく私であるとき、私は量子/資料でしかない。
情報には解体された軽さが青く角張っていて、
朝ご飯は、青とドラムとベースのトースト、
ギターの左手の押弦で喉に押し込む。

日本語の感触:尖っていたり、赤みがかっていたり、柔軟だったり、木製だったり、金属質だったり。
尖った言葉たち、シュガーレスで神経質で、冷凍されて分裂していて。
どちらかと言うとハイだったり。
ときにブルーで孤立していたり。

何処にも繋がることのないプラグ、空へと消えていく。
明滅に身を委ねる。レモンの味がするような夜の街、夜空。

雲がはらはらと落ちる。
キーが嬉しい。全てが押しなべて虹色の中で、
私は白黒、で、文字を綴じている、それは美しく、
全身の、水の出入り口は傷で出来ていて、傷はいずれ酸化する、
その、傷を黒く塗りつぶすみたいに、脳に手を入れるみたいに、
心地いい、作業。

[全ての水が破壊された宇宙]

過去は歌。
私の皮質に、うろこのように刻まれた、
油っこい、未来。
私のようで、私ではない、
この手。


光る眼をした天使が、私の壁を全てスクリーンに変え、
世界で一番近視の私は、
宇宙いっぱいにタイピングして、
あなたが隣の宇宙から縄文時代の地図を差し入れてくれたなら、
私は私の脳のコピーを少しあげるよ。


自由詩 逃避 Copyright 由比良 倖 2023-09-15 01:42:52
notebook Home 戻る