聲の形
板谷みきょう

2008年週刊少年マガジンの
第80回新人漫画賞入選で
漫画家デビューした大今良時は
当事19歳だったという

入選したが障害者に対しての
いじめの表現で掲載は見送られ
3年後の2011年2月号で
掲載されることになった

本屋で立ち読みして
その手話表現や
ろう者の描写の緻密さに
もう一度
家に帰ってから読もうと思い
ボクは少年マガジンを買った

高校の時に手話の存在を知り
ろう者から直接教わったのは
そう云う時代だったからだ

日常会話を手話で
話せるようになった頃
耳の聴こえない彼女の学校祭へ
一緒に出掛けるデートをした

学校祭のクラス展示や
ステージイベントを見て回り
彼女とも仲良く過ごしていた
これなら
上手く付き合えるんじゃないかと
有頂天になって模擬店で
両替えをお願いした

「千円札を細かくして下さい。」
『ん?何?』
「細かくして。」
『えっ!?千切って破る?』

全然、通じなかった

「千円を百円玉に交換して。」と
表現すべきだったと気付くのは
随分後のこと

帰りのバスで
二人で感想を話し合ってた時に
後ろで見知らぬ不良グループが
「おい。観てみろ。
つんぼが何か話してるぞ。」
ニヤニヤしながら
一人が話し
同調するように他数名が
ヘラヘラ笑った

一瞥したボクに
「あの人たち何を話してるの?」
彼女が尋ねてきたけど
なんとも言えない感情に
「別に大したことじゃないよ。」

本当のことも
自分の気持も伝えられず
ボクはバスに乗ってる間中
彼らのバカにし、ふざけた話を
聴こえないふりをしてやり過した

だから彼女とのデートは
それ一度きりとなってしまった

そのことを
聲の形は
思い出させてくれた


自由詩 聲の形 Copyright 板谷みきょう 2023-09-10 20:28:22
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