アビス
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 やけどした瞬間は
 熱を感じるいとまもないというが
 その瞬間が延々とつづくものが
 子どもなのだとしたら

 大人になるのは
 残された痛みに苦しむ日々を云うのだろうか
 痛みにつぐ痛み
 あらゆる日常はくり返されて
 終わることを知らない

 灼け果てた底なし沼に刻まれた
 硬い裂け目もやっぱり底なし
 そんな自分をどう未来に導けばいいのだろう
 怒りたくはないし
 悲しむのはもっと嫌
 ずっと積みかさねてきたはずの
 決意はばらばらに砕けてしまった
 寛容、という一語に救いを見いだし
 歩いてきたのだけれど

 それ以外のもの
 疑いようのないもの
 またその歓びについては
 いくらでも語れる
 今日も私がひとりの人間として生きていて
 あなたがあなたであるという
 替わるもののない事実を
 知っている。生まれた時から

 心を覗く者はまた心に覗かれている
 そのことばに込められた願いを
 私は知ってる。嫌というほど





自由詩 アビス Copyright soft_machine 2023-09-05 06:31:56
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