雲の披露宴Ⅱ
菊西 夕座
空のかなたで消し忘れたファンのように独楽がまわっている
地上から見れば小さな欠片のチカチカする煌めきでしかない
花嫁の消えたぬけがらの白い衣装が独楽の近くをたゆたって
さまよえるその肩に恋びとの死装束がそっと寄りそっていく
こうしてむすばれた主をもたない衣はどこまでもかろやかで
おおきな綿のようにふくらみながら繭の輪郭をもちはじめる
ふたりのむすばれを祝福するように独楽はまわり続けている
ときおり静電気の鞭がみえない速さで独楽をけしかけていく
あの独楽こそが佇立するわたしのくるおしい核なのであった
回想をやめさせてくれない鞭こそがわたしのいとおしい花嫁
繭のなかにはたくさんの電気が糸状菌のようにこまかく蠢き
つぎからつぎに生まれてはわたしの花嫁を新しくしならせる
はじき合うむすばれを拒絶しながら独楽はまわり続けている
地上からみれば小さな欠片のチカチカする煌めきでしかない
花嫁の消えたぬけがらの白い衣装がいつのまにかふえていく
壮大きわまる引き出物のように白いドレスがむやみに連なる
巨大な白いとり皿がひきのばされては千切れくばられていく
やわらかなその皿に曙光の送り火としてキャンドルがともる
家路にかえる鳩の群れからよこぎりざまに弔電をうけとると
空をおおう棺から青くかがやく透明な水が静かにぬけていき
風にまかせて泳ぐ繭からいっせいに距離が羽ばたき縮まって
あの独楽が別れの穴をふさぐ栓として胸の星になるのだった