待合
たもつ



草が草の記憶を語りだすと
風の結晶はふと風に溶けていく
掌で温めていた卵が消えてしまった時
わたしは初めて言葉を知った
その日の夕方
新しいベッドを買ってもらった
感謝の気持ちを伝えたくて
薄暗い台所におりていくと
美味しい水、とラベルに書かれた
美味しい水を飲んだ
触れるものはすべてが柔らかく
束ねられている
言葉、上手になったのね
そう褒められて覗き込んだ瞳には
海がひとつだけ映っていて
待合室みたいに狭く澄んでいたから
わたしは待つしかなかった
蝉がまっすぐに夏を鳴いている
本当はベッドも台所もない
誰もいない野原に
卵だけが転がっている
浅く深く呼吸を繰り返しながら
待ち続けている身体
生きているのに
生きることが遥かに懐かしい





(初出 R5.8.22 日本WEB詩人会)



自由詩 待合 Copyright たもつ 2023-08-23 07:07:05
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