花のない満開の春
菊西 夕座

濃密なすきまによって武装された道化師の衣装
時代の手綱を放れて八頭だて馬車がもぐりこむ
目をこらす間をうめてミクロはマクロを着服し
際限のない馬蹄の音で布袋腹をリピートさせる

いついかなるときにも反転が屈することはなく
落とした玉が跳ねかえっては顎をくだいている
咀嚼のままならない頭脳で光の草をしゃぶった
首をあげない臓腑が闇色の寝屋に心拍をそそぐ

逃げばを失うことのない騎手は微細な穴をぬけ
緑のオーロラを旗のようになびかせて宙を舞う
あらゆる間隙をつらぬいて旗が淵にわたされる

深淵の底で干からびた河床を演じる母体の腹膜
眠れる胎児のはてしない食欲に一切をあけ渡し
なおも埋めきれない空白に種をつまらせている


自由詩 花のない満開の春 Copyright 菊西 夕座 2023-08-20 15:46:00
notebook Home 戻る