終わらない夏休み
atsuchan69

砂粒がかがやくと
水際はふたたび沈んだ
土用の波が音をたてて崩れる
台風前の静けさが
妖しい雲に包まれていた

あの賑わいは、
もうない
貸しボートも
焼きそばも
かき氷もやっていない

誰もいない砂浜は夏の終わり
ドドドドーンと海が騒いだ

ついこないだまで、
セレブな麦わら帽子を被った
東京から来たお姉ちゃんと
原宿のような賑わいの
焼けた砂のビーチを歩いたのだ

宿題はやっていない
図画も、
工作もやっていない
なぜか毎年のことだった

夜はお姉ちゃんと寝た
リネンの肌掛け布団のなかで
ボクと嫁入り前のお姉ちゃんは、
寝苦しく幾度も寝返りを打ち、
互いに抱き合ったりした

扇風機が回る暗闇のなかで
答えの知らない未成熟な欲望が
ぐるぐる回って、
いつしか深い眠りに落ちた

朝、
お姉ちゃんはケロッとした顔で
宿題手伝ってあげる
今日は一日大変なんだから
と、言った
ボクは目玉焼きとハムを食べて、
ご飯もおかわりした

そうして、お姉ちゃんは東京へ帰って行った

まだ少し宿題が残っている
夏休みもまだ少しだけ残っている

夕方頃から強い雨が降り始めた
不気味な風の音が、
夏休みを吹き飛ばしてゆく
家のあちこちでガタガタと物音が鳴った

台風が過ぎると、
ふたたび太陽が輝いた

見渡す限りの山の緑が、
いっそう濃くなったみたいだ
青い湾を見下ろす
手入れの悪い庭の隅では
枯れ残ったヒマワリが
逞しく、空を見上げている


























自由詩 終わらない夏休み Copyright atsuchan69 2023-08-16 01:01:38
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