夏の空洞
塔野夏子

濃い青の空に
白い雲の城砦がいくつも立ち
なかぞらを埋めつくす蝉時雨
他のどの季節にもない濃密さで
夏は君臨する

けれどその夏の中に
巨きな空洞がある
夏のあらゆる濃密さが
そこでは途切れてしまう
記憶も希みも 祈りでさえ
その空洞を満たすことはできない

ただいつどこで生まれたのか
(あるいはこれから生まれるのか)
わからない痛みが
かすかに 谺するだけ

この空洞を抱いて
夏はなおも濃密に極まり
強い色の夏花を咲かせ
そのあざやかさで 数多の意識に
自らの存在証明を 深々と刻印してゆく




自由詩 夏の空洞 Copyright 塔野夏子 2023-08-15 09:48:28
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