よみ人しらず―死因は「熱中症」とだけー
菊西 夕座

九十年も連れ添ったなら
死ぬ日も一緒 どうせなら
あんたは言った 猛暑日に
「こんな暑さはどこふく風よ
エアコンなんてやめてくれ」
あたしは火照ってしかたない
あんたの強気に惚れたのね
このまま焦がれてあの世いき
世間は言うね あたしらを
暑さをなめて死んだのと
それでいいわよ クジュウの決断
これ以上の熱愛なんて望まない

それでもあんたはあたしだし
あたしはあんたにちがいない

九十年も寄り添ったなら
他人な風にはおもえない
肌に合うのは互いの熱だけ
このままプラグは抜いとくわ
あたしの心はあんたに差して
そのまましびれて感電死
あんたは熱くないのかい?
「刺されて死んでもどこふく風よ
怨恨なんてがらじゃない」
あたしの愛でやかれてる
そういうふうにしておいて
どうせこのまま無風なら

熱中症とは二人のさだめ
たとえ過誤でも愛は愛

本音をいえばあんたより
機械の風にあたりたい
助かる機会を手にしたい
遠のく意識がうつろに笑う
せめてあたしの手をにぎり
奇怪しごくと笑ってよ
ばかなあんたに添い遂げて
息も冷気もとめるんだから
せめて神さま このひとを
黄泉の泉で冷やしてください
せめて皆さま 遂げた詩を
詠み人しらずと詠んでください

熱はさめても天のご加護か
縁に結ばれ納得の炎ディング



自由詩 よみ人しらず―死因は「熱中症」とだけー Copyright 菊西 夕座 2023-08-15 09:38:39
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