陽の埋葬
田中宏輔




いつから、

あそこにゐるんだらう。

日溜まりの向かふに、

声がする。

日溜まりの向かふに、

声がする。

わたしの声だ。

それは、

とても懐かしい、

わたしの声だつた。

(あのとき、……、)

はぐれた庭に、

わたしがゐる。

(あのとき、……、)

はぐれた庭に、

わたしがゐる。

──カンダタの、はぐれた庭だ。

(あのとき、……、)

華を沈め、

(あのとき、……、)

魂をほどいたのは、

──わたしだつた。

(あのとき、……、)

しづかな庭で、

魂は

わたしからはづれ、

わたしからはぐれて、

また戻つて、

またはぐれて、

──いいえ、

わたしは、

どこへも行かなかつた。

また戻つて、

またはぐれて、

──いいえ、

わたしは、

どこへも行かなかつた。

どこへも行かなかつた。

ただ、しづかな庭で、

ひと掻きの灰のなかを

出たり入つたり、

出たり入つたり、

繰り返してゐた、

繰り返してゐた、

ただ、それだけだつた。




自由詩 陽の埋葬 Copyright 田中宏輔 2023-08-14 00:13:40
notebook Home 戻る