オーム(あるいは人の死)
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   オーム(あるいは人の死)



 その人は象徴を求めない
 鏡もまがたまもいらない

 その身を世界のくらやみに置かなくては
 鳥たちの空を見上げることは許されない

  キㇻぬけ
  みがオンムな となおけな

 その人が象徴の一部にして現象そのものだから
 縄の目は必要でよかった

 うなじをゆっくり這う蛭を
 ぺろりとのみ込む
 命と酸のたわむれ

 林の向こうでは 苗をさす唄がはじまった
 複雑で胸にひびく
 神のはじまりを見つけるしらべ

  ハーハ しか抜け
  ぱあん 食わね
  まぁオㇿー

 オㇿーは冷えてゆく気配を誰より見ぬく
 彼は北風と呼ばれる季節を
 自分のはじまりにつけた
 終わりの名はオーム

  たぎゆ あら ろぐろく
   鹿にやられた 内曲がりの角だ

 海の向こうと研かれた貝がらを いくさが巡る

  まぁオーム オーム しゃら
   死がはじまる オームに帰る

 妙につるりとした顔の
 ニンゲンが白いつぶを呉れた
 何人かがついていった

 白いつぶは
 不思議な味がしていた

 しゃっしゃんがぶ しゃっしゃま おん
  眠りなよ、さらば 目が覚めたら またな

 花を飾って いつも笑って
 そのゆびは 生きる道具そのものだったから
 ことばは ひとこともいらなかった

 わたしもはだしで
 夜の公園に立った
 しかし、幼児らが描き残していった
 意味を与えあぐねるしるしを見つけ
 すぐに諦めようと思った

 彼らは呼びあっているのかも知れない
 泥を深くいじる掌が
 今も オームを
 憶えているように見えはしまいか





自由詩 オーム(あるいは人の死) Copyright soft_machine 2023-08-12 19:39:58
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