夏井椋也


左手に溶けたアイスクリーム
右目に遠ざかる稜線
風の音しかしない口笛

右足で蹴ったゴミ箱
左耳で聞いた流行歌
海の匂いしかしない溜息

右手は枯れたサボテン
左足は錆びた自転車
人のふりしかしない影

丸い背中から昇る三日月
凹んだ胸板に沈む満月
癖毛の彼方で手を振る誰か
巻き爪の上で眠る猫

鳩尾には壊れたオルゴール
忘れた頃に突然泣き出すから
始末に負えない



自由詩Copyright 夏井椋也 2023-07-28 18:50:39
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