電脳と歩行
医ヰ嶋蠱毒
金属の地平を見晴らす月面
静かな夜は
一群の艸を吹き曝す
涼やかな風として
球形の地に立つ私が
真新しい建築を眺めている
水槽を泳ぐ小さな鯨は
嬰児のように清潔であるから
クレーターの底へ埋められた
頭蓋を洗い
直截に触れられた
記憶の手形だけを入江に流して
森林を背に屹立する巨大なモノリス
水銀に渇いた口を漱げば
一つの確率を指し光るリゾーム
いまここに在りながら帰郷せよ
大樹の幹に抜け殻を置き去り
遥か上空より累なる
かつての夢の立体へ
瞼の裏を過ぎ行く履歴に
忘れていた涙を思い出すとき
あたらしい惑星が産道をくぐり
次代の幼年期が始まりを告げるだろう
私は声を上げて泣き
雲一つない晴天に
無名のままで
祝福の雨が降る