美の真髄は置き去りのガードレール
菊西 夕座

夏まっしぐらの緑したたる峠にあって
世のくさぐさは置き去りにみちている
だれがいったい気にかけてくれるだろうか?
路傍の瀬戸際でひんまがったガードレールを

曲がりなりにも身を呈して明け暮れる棒立ち
へこんだ支柱、はがれた塗料、くすんだ白さ
跳ね上がった泥水と擦過傷でくたびれた肌
ボルトの銀ボタンをだれがいったい気にかける?

通りすがりに子どもが棒でたたけば望外か?
足元の草ぼうぼうが話し相手になるのやら
律儀に道に沿って延びるだけいっそう平板で
際に立つからといって際立つこともないライン

それでも生きているからこそうつくしい

斜面の草、廃屋の窓、壁に黒ずむ雨の垢
舗装のわだち、這い回る蟻、ひしゃげたトタン
ふすまとガラスで区切られた音のない縁側
そこに挟まって立つ地味な服の病弱な女

見向きもされないってことのほうが支配的
工事人夫がヘルメットからたらす汗でさえ
見逃されているってことのほうが多すぎる
世のくさぐさはこんなにも置き去りに道ている

だからこそ世界はうつくしい

防護柵に話しかけるほうが絶望的かと思う
そうして突き放されるぶんだけシャドーが増す
影深い車道にこそ美の真髄はレールを延ばす
空き家の庭のまんなかで黄色い百合が背を伸ばす


自由詩 美の真髄は置き去りのガードレール Copyright 菊西 夕座 2023-07-22 05:13:24
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